2026.01.10
【活動報告】行政から始まる多主体協創——長崎市「猪っと聞こう会」でお話した相利開発の実践知
1月9日(金)長崎市公務員イノベーション研究会「猪っと聞こう会」

このプロジェクトは、令和7年度独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業の採択を受け実施しています。
NPO法人協力アカデミーの松原です。
今日(1月9日)は、長崎市職員の自主的勉強会(長崎市公務員イノベーション研究会)「猪っと聞こう会」でオンライン講演を行いました。
タイトルは「協創のスキルを磨く!新しい施策実現の方法である『多主体連携』の作り方」です。
この企画は、長崎市市民活動センターの関根さんが、「NPOと行政が協働を進めていくためには行政側の理解も不可欠だ」と市に働きかけてくださったことで実現したものです。参加者は職員7名と関根さん。少人数でしたので、理論の背景から丁寧に共有する時間となりました。
本事業は「令和7年度 独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業」の一環です。
今回は理論編。次回(1月20日)はスキル編として、オンラインで相利評価表を使ったワークショップを実施する予定です。
なぜ、いま多主体連携なのか
講演ではまず、多主体連携が重要になってきた背景から整理しました。
戦後から1980年代までは、インフラ整備など「不足の解消」が中心テーマで、政府主導により量で課題を解決してきた時代でした。しかし1990年代以降、高齢化や環境問題など質的な課題が前面に出てきます。行政財源の拡大にも限界が見え、「民の力をどう活かすか」が問われるようになりました。NPO法制定、介護保険制度、指定管理制度などは、その流れの中で生まれたものです。
そして2010年代以降、課題はさらに複雑化しました。
行政と民間の二者関係だけでは対応しきれません。現在では、全省庁が多様な主体の連携による課題解決を推進しています。重層的支援体制整備事業、地域共生社会づくり、孤独・孤立支援、エリアマネジメント、DMO、コミュニティスクールなど、さまざまな政策が展開されています。
ここで重要なのは、従来の「協働」からの進化です。
これまでの協働は役割分担による事業実施が中心でしたが、いま求められているのは、多様な主体が集まり、新しいサービスや事業を生み出す「協創」です。
一つの大きなプロジェクトを全員で担うのではなく、それぞれの主体が自分の現場で課題解決に取り組みながら、連携によって新しい価値を生み出す。この発想こそが、これからの「多主体協創」の核心です。
なぜ、多主体協創はうまくいかないのか
しかし、多主体協創は簡単ではありません。
社会課題は、原因が複数絡み合い、社会構造に根ざし、利害対立が生じやすく、効果も予測しにくいという特徴があります。そのため、良いサービスを数多く提供すれば解決するという市場的発想では対応できません。
さらに、連携を困難にする具体的な要因もあります。
企業は収益性、行政は公平性、NPOは目的実現というように、主体ごとに目的や成功の定義が異なります。意思決定スピードも一致せず、権限や責任が曖昧になりがちです。状況変化への対応も容易ではありません。
制度面の課題もあります。補助金は「支援」が中心で行政側のメリットが見えにくく、委託は仕様に縛られイノベーションが起こりにくい。負担金は有効な手法ですが、行政ではまだ一般的とは言えません。
また、地方ではプラットフォームが乱立し、有力者を集めても日程調整で終わってしまうケースや、同じ人が複数の場で同じ議論を繰り返す非効率も見られます。やり方そのものが確立していないことも大きな課題です。
鍵は「目的の一致」ではない
そこで強調したのが、「参加者の目的を一致させようとしない」という視点です。
異なる目的を持つ主体が、それぞれに利益を得られる状態をつくる。
これが「相利開発」という考え方です。
協力を組み立てるとは、「相手があなたの目的達成から何を得るのか」を考え抜くことです。自分の正しさを説明することではありません。相手のメリットを設計することです。
相利評価表というフレームワークを使えば、関係者ごとに「問題」「目的」を整理し、一つの「活動」から各主体が得る「相利」を可視化できます。組み合わせを変えることで、新しい事業やサービスの可能性が見えてきます。ここにイノベーションが生まれる余地があります。
結局のところ、
「相手はあなたのために協力するのではなく、自分のために協力する」状態をつくれるかどうかが、多主体協創の成否を分けます。
この原理は、行政とNPOの連携だけでなく、庁内の部門間連携にもそのまま応用できます。
次回はスキル編です。
実際に相利評価表を使いながら、多主体協創の設計に挑戦します。
長崎からどのような新しい施策の芽が生まれるのか。
そのプロセスをご一緒できることを、楽しみにしています。