2025.12.08
一緒にやっている仲間と価値観やビジョンが合わない時はどうしたらいい?
困りごと・したいこと

この記事は独立行政法人福祉医療機構(WAM)の「令和7年度 社会福祉振興助成事業〈通常助成事業〉」の助成にて制作しています
価値観を合わせる必要はない。
“みんなが得をする仕組み(相利)”を作り直せば協働は動き出す。
多くの現場では、うまくいかない理由を
・価値観が違う
・想いが合わない
・ビジョンが共有できていない
と捉えがちです。
しかし相利主義では、これは「表面の問題」にすぎません。
相利主義とは、シンプルに言えば、関係者全員の利益(相利)がある活動は良い活動である、したがって、活動を設計するときは、関係者のそれぞれの相利を実現するように設計すべし、という立場ということになります。
本当の原因は、
「それぞれの人が “参加して良かった” と思える仕組みが設計されていない」
という「構造の不備」です。
1. 相利主義の基本視点
「価値観が違う」は問題ではない
人はもともと違う背景、役割、目的を持っているので、価値観が違うのは当然です。
相利主義では、協力が成り立つ条件はただ一つ。
『関わる全員が “参加すると得をする” と感じられる設計になっているか?』
これだけです。
価値観が一致している必要はありません。
2.よくある行き詰まりの原因(相利主義の分析)
価値観が合わないと感じる時、実際には次の3つのどれかが崩れています。
① “得するポイント” が人によって違うのに、まだ整理されていない
例:
・Aさんは「子どもを守りたい」
・Bさんは「地域の活気を上げたい」
これは価値観の違いではなく、「目的の種類が違う」だけです。
② 負担が特定の人に偏っている
例:
・毎回同じ人ばかり準備している
・情報を知っている人と知らない人の差が大きい
この状態になると、誰も「協力したい」とは思えません。
価値観の問題ではなく、「公平性の問題」です。
③ 心理的な重圧や義務感が強すぎる
例:
・断りづらい
・空気的に参加しないと悪い気がする
・“やらされている感”
こうなると、どんな理念が素晴らしくても続きません。
3. 相利主義の解決:価値観を合わせずに協働を成立させる方法
★ 解決策1:
それぞれの目的を分解し、“橋になる行動”をつくる
相利主義では、
「みんなの目的が同じになる必要はない」
と考えます。
Aさんの目的にも、Bさんの目的にも役立つ “共通の行動(橋)” をつくること。
例:
Aさん「子どもの安心」
Bさん「地域の活気」
→ どちらにも役立つ“見守り×交流型のイベント”をつくる。
→ どちらの目的にも貢献するので、協力が自然に成立する。
★ 解決策2:
負担の偏り(不公平)を直す
協力が壊れる最大の原因は「不公平」です。
価値観が違うからではありません。
実務的には次のように調整します。
⦁ 役割を小さく分ける
⦁ 「初めての人向けの案内」を用意する
⦁ 情報を早めに共有する
⦁ “断ってOK”を明文化する
これだけで「価値観の違い」が問題ではなくなります。
★ 解決策3:
参加の選択肢を増やし、“やらされ感”をなくす
心理的な圧力を減らすと、信頼関係が回復し、目的の違いは自然と薄れます。
効果的なのは次のような工夫です。
⦁ 役割を3種類くらい提示して選べるようにする
⦁ 「やらない」という選択も正当とする
⦁ 得意なことを生かせる場をつくる
⦁ 小さな成功を皆で共有する
自主性が戻ると、ビジョンの違いは問題にならなくなります。
★ 解決策4:
“第三の視点(公共)”を入れて整理する
相利主義の特徴は、
「あなた」「私」だけでなく、
“第三の視点(公共)” を必ず入れることです。
例:
⦁ 子ども
⦁ 安全
⦁ 地域環境
⦁ 将来世代
⦁ 災害時の備え
これを軸に議論すると、
個人の価値観の違いよりも、
“みんなが守りたい共通の領域” が自然と見えてきます。
そしてその領域を中心に協働をデザインすれば、価値観の不一致は協働の妨げではなくなります。
4. 現場でそのまま使える「相利主義の標準手順」
以下は、あなたのプロジェクトでもすぐ実践できる手順です。
ステップ1:全員の“目的”と“困りごと(問題)”を書き出す(相利評価表の冒頭)
→価値観を合わせるのではなく、違いを並べて可視化することが第一歩。
図1.相利評価表

ステップ2:目的が重ならないことを受け入れる
→無理に統一しようとすると、必ず反発が起きます。
ステップ3:両方の目的に効く“橋(共通の行動)”を考える
→これが相利主義が最も得意とする設計です。
ステップ4:負担を小さく均す
→負担が偏ると一気に関係が壊れます。
ステップ5:参加の選択肢を増やして、自主性を回復させる
→「やってあげる」ではなく「参加すると楽になる」状態にする。
ステップ6:小さく試して、全員が得しているか確かめる
→大がかりな合意は不要。小さなテストで十分。
まとめ:価値観の不一致は本質的な問題ではない
“みんなにとって得になる仕組み”を設計し直せば、協働は動き出す
相利主義の立場では、
⦁ 価値観は違っていて当たり前
⦁ 問題は「協働の設計」
⦁ 解決は「相利の再設計」
です。
にとって、非常に実践的なヒントを与えてくれます。
この考え方に立つと、
「価値観が違うから無理」ではなく、「どういう橋をつくれば互いに得になるか」という建設的な議論が可能になります。
価値観を合わせずに、協働を生む「設計図」を手に入れる
「価値観を合わせない協働」は、この一枚の表から始まります
記事でご紹介した「相利の標準手順」を、すぐに現場で使える動画とワークシート(PDF)にまとめました。
「Aさんの目的」と「Bさんの目的」を書き出すだけで、二人の間に架けるべき“橋”が見えてきます。精神的な消耗戦を終わらせ、仕組みで解決するために、まずは書き出してみませんか?